ここ最近、「美味しい味とはどのようなことなのか?」ということをずっと考えてて文献などを漁っていたんですが、脳科学から美味しい味についての研究に関する本が出ていたので、これはきっと面白いに違いないと読んでみました。それが上記の「美味しさの脳科学:においが味わいを決めている」です。これが完全に当たりでした。ちょうど一ヶ月前に「風味」ってなんなんだろうなーと考えてて「風味とは、口内から鼻に抜ける香りのことだと認識すれば理解しやすいな」と一ヶ月前に考えたんですが、アメリカの学者が出した本にそれと同じことが書いてあるんですよ! これはなんか気分いいですよね~。勉強とか全然してないけど、そこまでは俺独学で辿り着いたぜ~みたいな。まぁこの本を書いているゴードンさんは何十年も前から分かってて研究してるみたいなので完璧に負けてはいるんですが。
という訳で「この本は美味しい味を人間の脳はどのように理解しているのか」ということについて研究してきた著者のゴードン・M・シェファードの数十年の研究成果を一般向けに書き上げたものです。脳神経のかなり専門的な用語がたくさん出てくるので、その辺りはざっくりとしか理解できませんでしが、かなり面白かったです。「風味」という言葉の定義は非常に曖昧だなーとずっと考えていたんですが、口内から鼻に抜ける香りのことなんですね。本書では、臭いを人間が感じるパターンは二つあって、本書では下記のように分類されています。
オルソネイザル経路の臭い:普通の鼻から外気を吸うことで感じる臭い
レトロネイザル経路の臭い:口内から鼻に抜ける時に感じる臭い
難しい用語は置いておいても、風味とは純粋に臭いのことであって、口の中で食べ物を噛んだり、なめたり、飲んだりする時に発生する臭い成分が口内から鼻に抜けていく時に感じるものなのだと覚えておけば、ちょっとした時に使える豆知識として有効でしょう。犬などの動物は人間より嗅覚が優れているというイメージがありますが、それはあくまでオルソネイザル経路の臭いに対しては敏感なように進化しましたのであって、逆に人間はその進化の過程でレトロネイザル経路で臭いを感じる能力を進化させてきた、ということだそうです。
そして、臭いが「美味しい味」にとってとても重要なことだと書かれています。そういえば、鼻をつまんで料理を食べると、一体何の料理を食べているのか全く分からなくなってしまうという現象がありますよね。つまり、味覚で感じる五味はあくまで料理の美味しさに取ってベースとなる要素であって「美味しい味」となる為に欠かせない最も重要な要素は「臭い」であると言えます。
先日伊予柑さんのお手伝いで、Maker Faire Tokyo 2014というイベントに参加したんですが、この時の出し物が「ただの砂糖水をゼリーにして、そこにスプレーボトルからシュッと食用の香料を掛けるだけで味が変わるのを体験して貰う」というものだったんですが、殆どの人がその味の変化にビックリしてました。レモン香料や紅茶香料をシュッと一吹きするだけで、味気なかったゼリーが急にレモンゼリーになったり紅茶ゼリーに早変わりするんですよ。これはお手伝いさせて貰って、すごくいい経験になりましたね。このやり方を拡張していけば、料理にシュッと香料を一吹きすれば、味がガラっと変わってしまう、みたいなことを出来るってことなんですよね。現段階では砂糖水のゼリーみたいなものでしか香りをコントロール出来ないですが、研究が進めばかなり可能性はあると思いますね。
本の話に戻りますと、臭いをどのように脳が感じるかを研究してきたここ数十年の歴史も垣間見えるのが面白いですね。ちょっとした思い付きから仮説が生まれ、その仮説を証明して次々に脳科学の真実に近づいていく過程がとてもエキサイティングに感じました。他の研究者たちが研究している技術を見て、これは自分たちの研究の証明に使えるかもしれない! と試行錯誤しつつもワクワクしながらどんどん研究を進めていくイメージが私の中で生まれてきました。この辺りの文章は専門用語まみれでかなり読むのが大変でしたが、著者たちが頭を抱えて試行錯誤しつつもワクワクしながら研究している感じが読み取れて非常に面白かったです。
香りの成分は何百種類とあり、それらの香りが人間にどのように作用しているか、現時点ではまだまだ解明しきれていない領域ではあるようですが、この本でかなりのところまで研究が進んでいるのが分かりました。数十年後には、香りの分野がもっと面白くなってくるかもしれません。