本日は味覚の話です。味覚って非常に曖昧で、現状だと「人それぞれ」って感覚が強いです。味を表現するための言葉もたくさんありますが、コクとかキレとか旨味とか、色々言われても結局よく分からないですよね。味を数値化出来る味覚センサーという機械も世の中にはあるみたいですが、それで料理の味を完璧に表現出来て、美味しい味を作れるかというとまだまだ難しいのが現状です。ただ、私はどんな料理でも、その料理が「美味しい味」なのかどうかが大体分かります。自分は味覚が鋭いとかそういう話では無いんですが、それはどんな感覚で判断しているのかを、書いていきたいと思います。
頭の中にある「三つの箱」のイメージ
私は料理の味を感じる時、頭の中に「塩分」「出汁」「風味」という三つの箱を作って、それが満たされているかどうかで味を判断しています。自分の中に、この三つの要素をバランス良く満たしているのが「美味しい味」という具体的なイメージがあります。このイメージは、五感と具体的に結びついていて「この味は出汁が足りない」や「この味は風味が足りない」と判断しています。
このイメージは、私が料理を作りながら作り上げたものです。私は料理をする時、色んなポイントで味見をします。調味料を入れる前後、炒める前後、などの各種ポイントでちょっとずつ味見しながら、味の変化を具体的に感じるようにしてきました。そんな事をしてたら、こんなイメージが出来てきたんですよね。なので、自分以外の人に説明してもなかなか理解して貰えるとは思ってないのですが、似たようなイメージを持ってる人もいるかもしれません。
私のこのイメージを具体的に表現してみると、例えば出汁が薄いスープを飲んだ場合、なんだか水っぽい感じがするんですよね。しかし、出汁をどんどん濃くしていくと、水っぽい感じがしなくなります。こういった舌で感じたイメージを強く記憶するように意識してると、全く違うスープもの、例えば味噌汁とコンソメスープなんて全然違う料理ですが、同じイメージで味を感じる事が出来るようになりました。このイメージをどんどん拡張して、全ての料理の味を「塩分」「出汁」「風味」という三つの要素で考えることにより、ステーキだろうが、天ぷらだろうが、豚汁だろうが、炊き込みご飯だろうが、どんな料理でどの要素が足りていないか、なんとなく判断出来るまでになりました。
三つの要素のバランス
この三つの要素のイメージから世界中の料理の味を考えてるんですが、色んな地域の料理でこの三つの要素のバランス取り方は結構違います。和食やフランス料理・中華に関しては、出汁の成分を強くする傾向にあります。和食だと鰹節や昆布の出汁文化、フランスだと非常に手間の掛かるフォンの文化が特徴的ですね。中華も何時間も弱火で煮込んでスープを作ります。これがインドや東南アジア・南米あたりになると、出汁成分はちょっと薄めなんですが、風味を極端に強くすることで美味しい味を作っています。何百種類もありそうなスパイスや、香りの強い香草をふんだんに使うのが特徴的ですね。
味覚とは記憶力である
結局味覚ってなんなんだと考えると、五感で感じた味をどれだけ具体的に脳に記憶出来るかってことだと思います。私の場合は、三つの箱を作ることで汎用的に料理の味を判断することに成功しました。もちろんイメージがぼやけて記憶している味に関しては判断出来ない場合もありますが、これは食事する度に修正している感じです。味覚は天性のものなんて話もありますが、そんな訳ありません。特別でもなんでもなく、膨大な食に関する経験と、それを具体的に記憶しているか、ということなんだと思います。